(3)結果と考察
Hall(1981)は、北米のハイイロオオカミを以下の24亜種に分けた。
alces, arctos, baileyi, beothucus, bernardi, columbianus, crassodon, fuscus, griseoalbus, hudsonicus, irremotus, labradorius, ligoni, lycaon, mackenzii, manningi, mogollonensis, monstrabilis, nubilus, occidentalis, orion, pambasileus, tundrarum, youngi
また、過去の研究では、太平洋と五大湖を結ぶ線(アメリカ合衆国とカナダの国境)を境界に、ハイイロオオカミの形態を区別できることがわかっている。そこで、今回は、まずこの境界付近の亜種と、それらと分布が隣接するいくつかの亜種のあわせて12亜種間の類似性を調べた。
多変量解析を行うと、北方に分布する亜種と南方に分布する亜種の二つのグループに分かれた。北方に分布する5亜種(columbianus, griseoalbus, occidentalis, pambasileus, tundrarum)を北方グループとし、南方に分布する7亜種(fuscus, irremotus, lycaon, mogollonensis, monstrabilis, nubilus, youngi)を南方グループとして、今回の研究で亜種と亜種の類似性の比較の基準として使うことにした。
北米西部のハイイロオオカミ
ligoni、crassodon、baileyiと北方グループ、南方グループの類似性を多変量解析によって調べた。
ligoniは北方グループと南方グループの両方に類似していたが、南方グループにより類似していた。このため、南方グループに含めることにした。
crassodonは南方グループと一致した。
baileyiは北方・南方グループと類似せず、独立した亜種にすることにした。
alcesは多変量解析ができなかったが、裂肉歯の大きさから判断して北方グループに含めた。
北極とその付近のハイイロオオカミ
arctos、bernardi、mackenziiと北方グループ、南方グループの類似性を多変量解析によって調べた。
arctosとbernardiは北方グループとも南方グループとも類似せず、2亜種をまとめて独立した亜種arctosとした。
mackenziiは北方グループと一致した。
orionは多変量解析ができなかったが、頭蓋骨の標本からarctosと区別できるような特徴は見つからず、arctosに含めた。
カナダ北東部のハイイロオオカミ
hudsonics、manningi、labradorius、beothucusと北方グループ、南方グループについて多変量解析を行った。
hudosonicsは南方グループと一致した。
manningiも南方グループと一致した。
labradoriusも南方グループと一致した。
beothucusは南方グループと類似性があり、南方グループに含めた。
Canis lupus lycaon
lycaonは、今回の研究で最初に南方グループに含めてあった。しかし、過去の研究ではlycaonは複数の亜種に分けることができると議論されている。このため、オンタリオ州西部近辺のlycaon、オンタリオ州南東部のlycaonと北方グループ、南方グループの類似性を多変量解析によって調べた。
その結果、オンタリオ州西部近辺(オンタリオ州南西部、ミネソタ州北部、スペリオル湖付近)のlycaonは南方グループと一致した。しかし、オンタリオ州南東部のlycaonは北方・南方グループと類似しなかった。このことから、lycaonは独立した亜種とした。
これで、北米のハイイロオオカミは、arctos、lycaon、baileyi、北方グループ、南方グループの5つの亜種にまとめられた。学名の優先権にしたがって、北方グループの亜種名はoccidentalisに、南方グループの亜種名はnubilusとした。
アメリカアカオオカミ
アメリカアカオオカミとiycaon、baileyi、南方グループの類似性を多変量解析によって調べた。アメリカアカオオカミは、いずれとも類似しなかった。
また、2つの場所のアメリカアカオオカミと、近隣の6亜種のハイイロオオカミ(ここでは、今回の研究で新しく分けた亜種ではなく、Hallによる亜種irremotus、lycaon、youngi、nubilus、mogollonensis、monstrabilisを用いた。)の統計学的距離を調べた。その結果、アメリカアカオオカミ同士,ハイイロオオカミの亜種同士では統計学的距離は小さかったが、アメリカアカオオカミとハイイロオオカミの各亜種との統計学的距離は大きかった。
これらのことから、アメリカアカオオカミは、Canis lupusとは統計学的に分かれるといえる。
ユーラシアのハイイロオオカミ
ユーラシアのハイイロオオカミは、以下の12亜種に分けられている。これは、SokolovとRossolimo(1985)による分類やその他の過去の研究による分類をまとめたものである。
albus, campestris, chanco, cubanensis, desertorum, hattai, hodophilax, lupus, pallipes, arabs, lupaster, communis
まず、lupusとcampestris、chanco、desertorumの類似性を多変量解析によって調べると、campestris、chanco、desertorumはlupusと同じであることがわかった。このため、これらをlupusにまとめることにした。
さらに、多変量解析によって以下のことがわかった。
lupusはcommunisよりも北米のnubilusに類似していた。
一方、communisはlupusよりも北米のoccidentalisに類似していた。
albusはcommunisよりも北米のarctosに類似していた。
pallipesはアメリカアカオオカミにわずかに類似していた。
hattaiは北米のoccidentalisに匹敵して大型だった。
また、arabs、lupaster、hodophilaxは多変量解析ができなかった。
ハイイロオオカミの亜種への分化
ここでは、ハイイロオオカミはどのようにしてさまざまな亜種に分かれていったのかについて述べる。
オオカミは、更新世初期(約100万年前)に北米でコヨーテの系統と分かれた。原始的で小型のオオカミは北米南部へ広がった。この原始的なオオカミの一部はユーラシアへ移動した。そして、そこでCanis lupus(ハイイロオオカミ)に進化した。palliles、arabs、lupaster、hodophilaxは、暖かい気候のため祖先の小型の形態をとどめた。一方、北米に残った原始的なオオカミは、Canis rufus(アメリカアカオオカミ)になった。
ユーラシア北部ではハイイロオオカミは祖先よりも大きくなり、中型のCanis lupus lupusになった。イリノイ氷期の終わり(約30万年前)までに、C. l. lupusの一部が北米に戻り、nubilusになった。
更新世後期には地球環境が変化し、ハイイロオオカミがさらに亜種へ分かれた。例えば、北米のbaileyiは砂漠によって孤立した亜種である。また、この時期に最も大型のハイイロオオカミであるoccidentalisとcommunisが出現した。これは、他の大型肉食動物(北米ではアメリカライオンPanthera atroxやダイア・ウルフCanis driusなど)が絶滅したことによるものと考えられる。
オオカミの現状
今回の研究によって区分したハイイロオオカミの各亜種と、アメリカアカオオカミの現在おかれている状況は以下の通りである。アメリカアカオオカミを先頭に、おおよそ原始的なものから順に並べてある。
Canis rufus
本来は、アメリカ南東部に分布していた。現在は、ノースカロライナ州と他のいくつかの地域に再導入されたが、他の地域では絶滅した。
Canis lupus pallipes イスラエルからインドにかけて分布。非常に数が減った。
Canis lupus arabs アラビア半島に分布。非常に数が減った。
Canis lupus lupaster エジプトとリビアに分布。
Canis lupus hodophilax 北海道を除く日本に本来分布。絶滅した。
Canis lupus lycaon カナダのオンタリオ州南東部とケベック州南部の小さな範囲に分布。コヨーテとの交雑が心配されている。
Canis lupus baileyi メキシコ北西部のみに分布。
Canis lupus cubanensis コーカサス山脈、トルコとイランの一部に分布。
Canis lupus lupus ヨーロッパ東部からロシア、中央アジア、シベリア南部、中国、モンゴル、朝鮮、ヒマラヤ地域に分布。現在分布が非常に減っている。
Canis lupus nubilus アメリカ合衆国では絶滅した。アラスカ南東部、カナダ東部、バフィン島にのみ残る。
Canis lupus arctos グリーンランド北部と東部、クイーンエリザベス諸島、バンクス島、ビクトリア島に分布。生息環境は壊れやすい。
Canis lupus albus ユーラシア北端部に分布。
Canis lupus communis ウラル山脈に分布。正確な分布範囲はまだわかっていない。
Canis lupus hattai サハリン、北海道に本来分布。絶滅した。
Canis lupus occidentalis カナダ北西部、アメリカのモンタナ州北部に分布。現在分布を拡大している。
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