ライチョウ、二十年前から半減地域も、原因はシカ、サル!
救うのは復活オオカミ
2006年8月26、27日、静岡市で「第7回ライチョウ会議静岡会議」開催を新聞(読売2006年8月28日月曜日朝刊)で知りました。
この会議には、動植物の専門家や環境省、林野庁などの関係者ら約140人が参加。
ライチョウ激減が報告されました。
「南北アルプスで1980年代約3,000羽の生息が推定。
2003年から再開された調査では、立山(富山県)や白根三山(静岡、山梨、長野県境)などの地域で、生息数が20年前に比べ約4〜5割減少していることを明らかにした。
減少の最大の原因として、(1)温暖化の影響で本来の生息域ではない高山帯で活動するようになったニホンジカ、ニホンザルによる植物の食害や、(2)チョウゲンボウによるライチョウの捕食、が指摘された。
高山植物を研究する増沢武弘静岡大学教授によると、かつて景観美を誇った塩見岳(静岡市葵区)などの花畑がニホンジカなどに食い尽くされて荒地になるなど、南アルプスでの食害は深刻な状況だという。
中村浩志信州大学教授はニホンジカの個体数管理などの対策が必要と述べた。」(以上、同紙)
ニホンジカの増加と分布の拡大は、高山帯にまで到達し、ライチョウの生息にも影響を及ぼすようになってしまいました。
シカは生息密度が高くなるにつれて周辺部に生息域を広げていきます。
そして、冬、雪が積もり、餌が採れなくなり、移動が出来なくなるような地域に到達した群れは、夏の間だけを過ごして秋から冬は麓に移動し、再び雪が溶けると高山に戻るのです。
こうして、シカは季節的移動を始めるのです。
シカの生息域の拡大や季節的移動の開始は、地球温暖化の有無とは本来関係ないものです。
シカが増加する過程で必然的に発生する行動なのです。
いろいろな環境に進出して進化し、種族繁栄を導く、本来からシカに備わった知恵とみるべきでしょう。こうした、どの生き物にも備わった進化の知恵は生態系の秩序とうまく調和して働くはずなのですが、最近のニホンジカの場合はどうやらおかしくなっているようなのです。
どうしてなのでしょうか?
答えは、生態系の中でのバランスのとり手がいなくなったからです。
それは、オオカミの絶滅であり、日本のハンターが最近では後継者がいないままに高齢化し、減り続けているからです。
これに加えて、地球温暖化によってシカの栄養条件がよくなって病気や事故による死亡率が異常に低くなっているのかもしれません。
内モンゴルの草原での体験です。
「アジャパー」と変な風に聞こえるウズラの鳴き声。
日本では自然草地が減り、狩猟で捕られて減ってしまい、お馴染みでなくなったこの鳥の声は、まだ異郷の草原ではあちこちで聞くことができます。
でも、注意すると「アジャパー」が聞こえるのは草丈が高く密生している草原に限られているのです。
放牧された羊や牛が食べて低く刈り込まれた草原では聞くことはできません。
なぜかというと、ゴルフ場のような草原では隠れ場所が無いためソウゲンワシやマダラチュウヒなどの猛禽類に狙われて営巣ができないからなのです。
羊に食べられて芝生状に矮小化した草原にはみだして作られた巣がチュウヒにあっさりと襲われてしまう光景もたまたま目撃しました。
日本のアルプスの高山帯でも同じようなことが起きているのでしょう。
シカが植生を食べる。
植生は疎(まだ)らになったり、完全に消失する。
この植生の消失でライチョウは餌を失ったり、天敵の前に無防備に晒される。
チョウゲンボウが目ざとくライチョウの雛を見つけて攻撃し、あっさりと仕留める。
天敵は他にも沢山います。
植生がなくなると山崩れが起き易くなり、ますますライチョウは住みにくくなってしまいます。
これを防ぎ、ライチョウを守るためには、シカのコントロールが必要であることは勿論です。
でも、険しい高山帯。どのようにしたら良いのでしょうか。
ハンターの皆さんもやってくるのがとても大変。
やってきたとしても長い間、高山帯に踏みとどまってはいられないでしょう。
では麓でシカの越冬地をみつけて駆除。これは良い考えかもしれません。
でも、越冬地を探すのも一苦労。運良く探し当てても到達が大変。
それにコントロールの手を緩めると、繁殖力が強いシカはすぐに増えてしまいます。
コントロールを始めたら、未来永劫、継続しなければなりません。
それに、コントロールと言ったって、どの地域をどの程度の生息密度にするのかといった細かいことまで調査して決めなくてはなりません。
アセスメントすなわち事前調査が必要です。決めたからといって、そのとおりにうまくいくかどうかわかりません。
結果も調査する必要があります。モニタリングです。
これら一連の作業を延々と繰り返す。気の遠くなるような話です。
随分お金がかかることでしょう。
少子高齢化、人口減少、福祉、経費削減、構造改革などが深刻になっている時、本当に実行できるのでしょうか。
「シカ増加−植生破壊−ライチョウ減少」。
この悪い連鎖の遠因は、生態系からシカの天敵オオカミを絶滅させ、そのまま放置してきた日本の近代化の歴史にあることは疑いようがありません。
問題解決にむけていろいろな工夫が必要であることは勿論ですが、根っ子の解決、絶滅させたオオカミの復活を忘れてはなりません。
ライチョウを救うためにはオオカミの復活、すなわち生態系の回復が必要なのです。
丸山直樹
(JWA会長)
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