「増えすぎたシカが森林生態系を崩壊させる!」
「イノシシによる深刻な農業被害!」
このようなニュースがながれても、市民はおろか野生動物や自然保護の研究者でさえ最近では驚かなくなってしまったように思えます。
増えすぎたシカやイノシシ、サルによる農林業被害や森林被害は、私たちの感覚を麻痺させてしまうほど、ごく当たり前のこととなってしまいました。
しかし、こうして手をこまねいている間にも被害は日々拡大し、その深刻度は増していきます。
早急な解決が求められていますが、狩猟者の減少に歯止めが利かない現在では、狩猟だけにその対策を期待することはできないでしょう。
そこで、新たな打開策として提唱されたのが本書の主題でもある「オオカミ復活」なのです。
本書は10年以上にわたる「日本のオオカミ復活運動」の集大成と言えるのかもしれません。
日本のオオカミの絶滅からちょうど100年目にあたる2005年11月に、野生生物保護学会第11回金沢大会で行われた「オオカミ絶滅100年シンポジウム」の内容を基に、15名に及ぶ研究者、フィールドワーカー、ナチュラリストなど国内外で活躍する様々な人々によって、自然科学から人文社会学まで広い視点で「オオカミ復活」が論じられています。
「シカの増えすぎは如何に起こり、どのように生態系を変えていくのか?」
「オオカミは実際に何を食べ、生態系のバランスをどのように調節するのか?」
「オオカミが現在も生息する諸外国では、人々は自然やオオカミとどのように付き合っているのか?」
「オオカミは人を襲わないのか?人食いオオカミは本当に存在するのか?」
オオカミ復活に対するこれらの疑問が、非常に分かりやすく簡易に解説されており、生態学や自然保護に疎い方でも読みやすく興味が持てる内容と構成に仕上がっています。
オオカミ復活運動が日本ではじまり、早10年以上が経過しました。
世間にはなかなか受け入れてもらえないこの壮大なプロジェクトも、日本オオカミ協会を中心とした地道な活動によって、少しずつ、しかし確実に広がってきました。
その成果は本書の内容からも、そして、本書の執筆に名を連ねた私を含める若い研究者が育っていることからも窺い知ることができます。
しかし、私はまだまだ足りないと感じています。
本書では日本におけるオオカミ復活の具体的な手順などに触れていません。
裏を返せば、それはオオカミ復活運動がまだその時点に至っていないことを示唆しているのです。
本書の目的がオオカミ復活を解説し、その必要性を多くの方々に理解していただくことにあることは確かでしょうが、むしろ私には、オオカミ復活議論の起爆剤として役立つことこそが本書の真の役割であるような気がしています。
この問題に無関心だった人々や知らなかった人々に目を向けていただき、議論に参加してもらうこと、そして、本書を叩き台に賛成派も反対派も混ざって大いに議論が盛り上がることを期待するばかりです。
そこから日本のオオカミ復活議論は新たな一歩を踏み出していくのではないでしょうか。
角田裕志(東京農工大学大学院博士課程)
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